スコットランドと沖縄―自治・独立をめぐって(読売オンライン)

スコットランドと沖縄―自治・独立をめぐって(読売オンライン)


江上 能義/早稲田大学政治経済学術院・公共経営大学院教授

http://www.ntt-i.net/kariyushi/yomiulionline20160404.html

http://www.yomiuri.co.jp/adv/wol/opinion/international_160404.html

 早稲田大学に赴任する前に、私は琉球大学に25年以上にわたって勤務していた。沖縄では、戦後の米軍統治時代に続いて1972年に日本に復帰してからも、沖縄の自治構想や自治制度をめぐる論議が絶えなかった。

 そうした沖縄独自の政治環境の中で、私は英国内のスコットランドやウェールズなどの地域分権(devolution)に関心をもち、オクスフォード大学やロンドン大学(SOAS)での在外研究期間にこの研究テーマに取り組んだ。

 2014年9月に実施されたスコットランド独立をめぐるリファレンダムは世界の注目を集めた。早稲田大学の特別研究期間の機会を与えられた私はこの独立リファレンダム実施に焦点を合わせてエディンバラに到着し、その後1年間、エディンバラ大学でスコットランドや英国の政治動向について考察することができた。

スコットランドの自治と独立への動向

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ロンドン・セミナーでの筆者の基調講演(2015年7月、国際交流基金主催)

 英国はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの連合王国である。1707年、スコットランド王国とイングランド王国が合併し、グレイトブリテイン王国が建立された。スコットランドはこの時、独立を失った。

 英国の人口は約6470万人だが、そのうちスコットランドの人口は約530万人でおよそ8%を占めるにすぎない。だがグレートブリテン島北部のスコットランドの面積は英国全体の面積の32%を占め、平坦なイングランドに比べて起伏に富む豊かな自然を擁し、独自の文化を誇りにしている。英国で唯一の核基地もある。

 20世紀に入ってスコットランドでは自治問題が議論されるようになり、とくに第2次大戦後、英国の経済悪化の影響がスコットランドを直撃すると、労働党がスコットランドの地域分権を支持して、1979年にリファレンダム(国民投票)が実施された。だがこのときは失敗した。しかし1997年にブレア労働党政権が登場して再び、地域分権についてのリファレンダムが実施され、賛成多数で承認された。スコットランドは強力な自治権を有する独自の議会(Scottish Parliament)を有し、第一次的な立法権と完全な行政権を得た。非常に画期的な分権であった。

 だがこのスコットランド議会で、スコットランドの独立を主張するスコットランド国民党(SNP)が2011年に政権の座につくと、さらに独立への動きが勢いを増していった。財政政策や国防政策の根本はロンドンの保守党政府が掌握していて、選挙区で保守党議員はほとんど選出されないスコットランドでは、スコットランドの民意が英国政治において反映されていないという不満が高まり、SNPを選挙で勝利に導いた。スコットランドに苛烈な諸政策を強いたサッチャー政権以来、保守党はスコットランドでまったく人気がない。

スコットランド独立投票(2014年9月18日)

 英国政府のキャメロン首相とスコットランド政府のサモンド首席大臣は2012年10月、スコットランド独立を問うリファレンダムを実施するエディンバラ合意に署名した。ユニオンジャックの国旗の下でロンドンオリンピックを成功させたキャメロン首相は、スコットランドの独立派に圧勝して独立反対派が勝利を収め、連合王国を維持することに自信満々だった。

 事実、2014年前半まで独立反対派が圧倒的に優勢だった。だが8月半ばくらいから、ソーシャルネットワークや草の根集会を駆使した独立派の成果が表われ、独立派は次第に劣勢を挽回してその差を詰めていった。そして投票日の11日前のサンデータイムズ紙(9/7)世論調査では、YES51%、NO49%と、ついに独立賛成派が反対派を上回った。連合王国崩壊の危機に直面し、キャメロン政権と連合王国派はパニックとなり、世界中の注目がスコットランドの独立投票に集まった。

 だが、エリザベス女王やオバマ大統領まで登場させた反対派の必死の巻き返しが功を奏して、周知のように最終的には独立反対派が10%差で勝った。日本を含めて世界の国々の大半はこの結果に安堵した。ところがこの敗北でスコットランド独立運動は終わらなかった。

首相の“裏切り”とSNPの躍進

 キャメロン首相は投票日直前に、独立を阻止するために、連合王国にとどまったら、スコットランドに思い切った権限移譲の具体策を速やかに実行すると約束した。だが独立反対の投票結果が出たとたんに、彼はこの約束について忘れたかのように言及しなくなった。この“裏切り”にスコットランドの人々は激怒した。

 スコットランド国民党の党員数は急速に増え続け、投票前の2万5千人からいまや11万人を上回る。この趨勢は翌年2015年5月の英国下院総選挙の結果に表われた。スコットランドの59の選挙区のうち、SNPは56議席を獲得し、残りは保守党1、労働党1、自由民主党1となり、英国全体では保守党が勝ったが、スコットランドでは独立リファレンダムを主導したSNPが圧勝したのである。スタージオン首席大臣は、6月のリファレンダムで英国がEUから離脱すれば、再度の独立投票実施を示唆している。

スコットランドと沖縄

 このスコットランドに注目しているのが沖縄であり、リファレンダム当時、沖縄のジャーナリストや研究者たちが現地でスコットランドの人々と真剣に意見交換していた。スコットランド自治権拡大運動の指導者、イザベル・リンゼイはかつて沖縄で講演したことがある。核基地反対の意向が根強く、独立運動の勢いが持続しているスコットランドと、独立王国の歴史を有し、米軍基地問題で日本政府と激しく対立する沖縄との交流が今後、どのように展開していくのか興味深い。


江上 能義(えがみ・たかよし)/早稲田大学政治経済学術院・公共経営大学院教授

【略歴】
1946年佐賀県生まれ。1977年早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。同年琉球大学法文学部講師。1989年同大教授。2003年早稲田大学大学院公共経営研究科教授。この間、カリフォルニア州立大学バークレー校東アジア研究所、オクスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ、ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)の客員研究員を歴任。

【単・共著】
・『比較政治学のフロンティア』(ミネルヴァ書房、2015年)
・New Directions in Global Political Governance( Ashgate,2002)
・『テクノロジーと現代政治』(学陽書房、1989年)
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